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最高裁判所第三小法廷 平成10年(行ツ)164号 判決 2000年12月19日

上告人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

池本美郎

被上告人

香川県

右代表者知事

真鍋武紀

右訴訟代理人弁護士

田代健

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人池本美郎の上告理由のうち、地方公務員法二八条四項、一六条二号が憲法一三条、一四条一項に違反し、香川県職員退職手当条例(昭和二九年香川県条例第三八号。以下「条例」という。)六条一項二号が憲法一三条、一四条一項、二九条一項に違反する旨をいう点について

地方公務員法二八条四項、一六条二号は、禁錮以上の刑に処せられた者が地方公務員として公務に従事する場合には、その者の公務に対する住民の信頼が損なわれるのみならず、当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼も損なわれるおそれがあるため、このような者を公務の執行から排除することにより公務に対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。地方公務員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務しなければならず(憲法一五条二項、地方公務員法三〇条)、また、その職の信用を傷つけたり、地方公務員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない義務がある(同法三三条)など、その地位の特殊性や職務の公共性があることに加え、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに照らせば、地方公務員法二八条四項、一六条二号の前記目的には合理性があり、地方公務員を法律上右のような制度が設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえず、右各規定は憲法一三条、一四条一項に違反するものではない。このことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和三一年(あ)第六三五号同三三年三月一二日判決・刑集一二巻三号五〇一頁、最高裁昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日判決・民集一八巻四号六七六頁)の趣旨に徴して明らかである(最高裁昭和六二年(行ツ)第一一九号平成元年一月一七日第三小法廷判決・裁判集民一五六号一頁参照)。

また、禁錮以上の刑に処せられたため地方公務員法二八条四項の規定により失職した者に対して一般の退職手当を支給しない旨を定めた条例六条一項二号は、禁錮以上の刑に処せられた者は、その者の公務のみならず当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼を損なう行為をしたものであるから、勤続報償の対象となるだけの公務への貢献を行わなかったものとみなして、一般の退職手当を支給しないものとすることにより、退職手当制度の適正かつ円滑な実施を維持し、もって公務に対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。前記のような地方公務員の地位の特殊性や職務の公共性、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに加え、条例に基づき支給される一般の退職手当が地方公務員が退職した場合にその勤務を報償する趣旨を有するものであることに照らせば、条例六条一項二号の前記目的には合理性があり、同号所定の退職手当の支給制度は右目的に照らして必要かつ合理的なものというべきであって、地方公務員を私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえないから、同号が憲法一三条、一四条一項、二九条一項に違反するものでないことは、当裁判所の前記各大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

その余の上告理由について

右上告理由は、違憲をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、民訴法三一二条一項又は二項に規定する事由に該当しない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文とおり判決する。

(裁判長裁判官奥田昌道 裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣)

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